3度目のリメイク映画『タイヨウのウタ』感想文

《推定睡眠時間:0分》

XP(色素性乾皮症)により昼間は外に出ることができない弾き語り大好きヤングウーマンを描いたYUI主演の難病映画『タイヨウのうた』、日本のテレビドラマ版とハリウッドリメイク版『ミッドナイト・サン』に続いてなんと3度目のリメイク、今度は韓国映画である。YUIありきの企画ものアイドル映画だったかもしれないオリジナル版が製作された時にいったい誰がここまで息の長いグローバルな作品になると予想できただろうか。おそらくそんな人は日本に、いや世界に、そればかりか宇宙にさえも一人として存在しないだろう。シネフィルは21世紀の日本映画を代表する作品といったら濱口竜介でしょ山中瑶子でしょとか言うかもしれないがそれはあくまでシネフィル業界の話であって、実績および知名度から言えば『タイヨウのウタ』がたぶんその筆頭候補である。やはり難病と闘う健気なシンガーソングライター少女(今回は一応20歳ぐらいの設定)という王道ドベタな物語は王道ドベタだけあって万人の心に訴えかける何かがあるのであろう。

でこの韓国版の特徴は大筋は過去作と同じもYUIやベラ・ソーン(『ミッドナイト・サン』の主演)が夜間限定のストリート・ミュージシャンだったのに対してネット配信で曲を聴かせるところ。オリジナル版から約20年、あれからずいぶん世の中も変わったもの。YUIは曲を聴かせる場所がストリートしかなかったわけだが今や家に居ながらにして世界中にその楽曲を届けることができるようになったのであった。その点も含めて韓国の今が刻印されたかに見えるこのバージョンではそれまでのタイヨウたちがあくまでも自分と自分の半径5メートルに向けて慎ましく歌い誰にもとは言わないが世間にはあまり知られることなくひっそりと世を去って行ったのに対して主人公歌手デビュー。ショウビズの世界が主要輸出産業となっている韓国らしい展開かもしれない。

そうしたちょっと華やかなところもあって過去作よりも詩情は薄めで、そのぶんユーモアもたくさんの笑って泣けるウェルメイドな恋愛映画となっているのが今回の『タイヨウのウタ』。たぶん韓国版オリジナルのはずの近所の親友の存在感ありネット配信で住所が特定されるネットの闇ありそしてもちろん良い歌いっぱいありでいろんなオモシロをちょっとずつ新しく盛り込んで娯楽性という意味では『タイヨウ』ユニバースでいちばんかもしれない。案外恋愛部分はそこまで希求力がないっていうか恋人になる役者志望の男の魅力があんまりないのでその点は過去作に比べて弱いかもしれない。

さて『タイヨウ』といえば主人公の最期の決断。実はこれはオリジナル版とハリウッド版で180度異なっていて、オリジナル版ではどんなに苦しくても最期まで自分の生を全うするのだが、ハリウッド版では苦しくなる前にやりたいことをすべてやって安楽死を選ぶ。このへん国による死生観の違いが如実に表れていて興味深いところなのだが、じゃあ韓国版はどうかというとそのどちらでもなく第三の道、具体的には書かないが死期を悟ったに自分の命を世界に分け与えるという決断をするのであった(そこで主人公の歌手デビューが生きてくる)

この利他的な決断が韓国のどのような文化を反映したものなのかはぶっちゃけよくわからないが、ともあれなるほどその道があったかと唸らされたし、すっかり弱った主人公が母親に「もう旅行なんて長い間行ってないでしょ」とハワイ旅行券をプレゼントして母親が「やめなさいよ、縁起でもない」と涙を堪える朝食のシーンはちょっと泣いてしまった。3度リメイクされてまだ泣けるのだからやはり『タイヨウ』、名作である。

まだまだ面白いし泣ける『タイヨウのウタ』。こうなればぜひとも各国の『タイヨウ』を観てみたいものである。次はインド映画版とかどうですか? 歌って踊ってオッサンがめちゃくちゃカッコつけたアクションして…なんか違うな!

※調べたら『タイヨウのうた』もリメイクというか翻案だそうで真のオリジナル版は1993年の香港映画『つきせぬ想い』らしい。1993年の香港に始まり、2006年の日本でリメイクされ、2017年にはアメリカでリメイク、そして2025年に韓国でリメイクと、十年間隔で違う国に蘇る、なんだか大河ドラマの如しシリーズである。

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