まさかのホロリ系共和党アクション映画『ワーキングマン』感想文

《推定睡眠時間:5分》

出演ジェイソン・ステイサム、脚本シルヴェスター・スタローン、監督デヴィッド・エアー! あまりにも共和党アクションすぎる座組に喜んでいたら本日2026年1月3日、アメリカ合衆国がベネズエラ首都に電撃侵攻をかけてマドゥロ大統領を強制排除したとのニュースが入ってしまった。アメリカ国民の安全のためとか独裁者が市民を弾圧しているとか適当な理由をつけて(マドゥロ政権は独裁政権だしその経済政策の失敗によってベネズエラで数百万人規模の難民が発生したのは事実だが)他国の政治指導者をすげ替えるのは今に始まったことではぜんぜんない共和党しぐさだが、そういうことを現実世界でやられてしまうと暴力とバイオレンスで悪人を殺せば万事オッケーという実に野蛮な共和党アクションを素直に楽しめなくなるので本当にカンベンしていただきたいと思う。もっとも、それはそれこれはこれ。共和党アクションを否定したからといってアメリカが蛮行をやめてくれるわけでもないし(だいたいアメリカは共和党だけでなく民主党でも超あっさりと他国にカチコミをかける野蛮国なのだ)きっちり映画は映画として楽しませていただきましたがね。

ということで『ワーキングマン』だがタイトルの時点で既に共和党アクションなのですごい。米共和党員、労働階級中心・ポピュリズム寄りに急転換 トランプ政権機に(ロイター)なんて記事がわかりやすいが近年の米共和党は労働者の党となっており(従来は民主党が労働者の党だった)、このタイトル、そして主演のステイサムの役柄は元英国特殊部隊の建築現場監督という設定から、とにかく共和党っぽさがあまりにも満々、それもそのはず脚本を書いたスタローンはデビューした頃から一貫して熱心な共和党支持者なのであった。『ランボー』シリーズなんかはスタローンの共和党支持者っぷりがストレートに出たものだが、今は普通に暮らしている元特殊部隊の男が悪人に困らされている人に助けを請われて悪人どもを皆殺しにするという点で『ワーキングマン』は『ランボー』シリーズ、とくに『最後の戦場』の延長線上にあるように見えるのは興味深いところだ。

まぁストーリーについてはそんな書かなくてもいいよな。悪いヤツ(定番のロシアンマフィア)がステイサムの勤務する建築会社の社長(マイケル・ペーニャ!)の娘を誘拐してしまったのでステイサムが特殊部隊スキルを駆使してサーチ&デストロイするいつものやつである。この大きいようで小さいスケール感に共和党アクションだいすきな民主党支持者の俺など実にグッときてしまう。勤務する建築会社の社長の娘て。いささか身近すぎる被害だが、しかしだからこそ、そんな小さな被害にガチギレして関係者を皆殺しにするステイサムの必殺仕事人っぷりがアツいのである。だいたい宇宙からすごいのが侵略してきたから人類を守るために戦うとかそういうのは実感が湧かないじゃないの。

入り口こそどえらい小さいがしかし腐っても敵はロシアンマフィア、となれば事態は雪だるま式に膨れ上がって次から次へと刺客がステイサムを襲うことになるわけで、最終的に『マッドマックス 怒りのデス・ロード』みたいなバイカーギャングまで乱入して世紀末の様相を呈すのだから笑ってしまう。そんなもんさっさと警察呼べばいいだろ(てか最初からそうしろ)と思うが警察はみんな買収されてる設定なのでこんな無茶も通るのだ。この「警察は信じられないから自分たちで武装して戦うしかない」という自警団的発想は共和党支持者の王道的な世界観なので、とにかく骨の髄まで共和党アクションなこの映画である。アメリカ政治学を勉強している人にはぜひともご覧いただいて論文を一本カマしてもらいたい。

おもしろかったのは同種の映画として同じく監督デヴィッド・エアー×主演ステイサムの『ビーキーパー』というのがあったが、あちらがボンクラ脚本家カート・ウィマーらしい厨二感覚のシナリオだったのに対して、こちら『ワーキングマン』はさすが現場の苦労を知るスタローン脚本とあってちゃんと地に足のついた展開になっているところ。ステイサムは何も最初からカチコミをかけるわけではなくその行動の大半は誘拐された娘の居所を探るための計画的な捜査活動ということでさすが現場監督としか言いようがない。ネットではステイサムの現場監督属性あんま関係なくないとかすごい正論を言われたりしているが、いやいやそんなことはないこれはこれこそは現場監督のお仕事じゃないですか! 現場労働者なら深く考えずにとりあえず視界に入った人を殴ってみるかもしれないが現場監督となれば行動の前にまず計画を練り何がどこに必要かちゃんと考えてから事を進めるものである。

そんなわけでステイサムが徐々に敵の本丸に迫っていくサスペンス感もあり、そして迫るにつれてお揃い色違いのブランド服をキメたおもしろ兄弟とかガンクレイジーなロシアンロン毛とか例のマッドマックスな人たちとかどんどんヤバそうな敵が集結してくるってんで、ストーリーとかどうでもいいよなみたいなことをさっき書いてしまったが、実はストーリーがこの手の共和党アクションには珍しくしっかり盛り上がる。案外マッドマックスな人は弱かったので共和党アクションのくせにアクションよりもそこに至る過程の方がおもしろいという点で珍しい映画かもしれない。誘拐された娘が素人のくせになぜかやたらと強い(一応祖父が特殊部隊だったとか雑な説明はある)とかそういうのも、味。

あとラストは意外とホロリとさせられてそこもよかったです。どういうラストかというのはまぁ映画館で観てもらうとして、いや、別に大したラストではないのだけれども、ただ『ランボー』シリーズの今のところの最終作『ラスト・ブラッド』が一度は「ホーム」を見つけたかに思われたランボーが再びホームを喪失して失意の中であてどなく旅に出る……というなかなか痛ましいものであったから、『ランボー』シリーズと精神的に繋がるこの映画のラストはそれに対するスタローンのセルフアンサーのように見えてですね。で、それをステイサムが演じているというのがさ、なんか、スタローンが俺はもうダメかもしれんからこれからはお前に任すわってステイサムに言ってるみたいでね……あれ、これ良い映画だったんじゃないの? 共和党アクションのくせにそう錯覚してしまいそうな『ワーキングマン』でありましたとさ。おもしろかったです。

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匿名さん
匿名さん
2026年1月5日 7:15 PM

「ビーキーパー」は、ノリノリでおれおれ詐欺に加担してた連中が火事のどさくさで結構逃げ延びていて、「全員手足の1、2本へし折ってくれないと」と(本編尺にそんな余裕がないことは理解しつつも)モヤモヤしたのですが、今回は悪事に加担した連中がもれなく酷い目に遭うという、よりしっかり溜飲の下がる展開になっていて、そこんところも気が利いてるなぁと笑顔になれました。

匿名さん
匿名さん
2026年1月5日 8:00 PM

娘さんは「空手を習っている」と冒頭さらっと言われてまして「後半絶対生かされるな」と思ったら案の定でしたねえ

ビーキーパーの続編決まって現在製作中でそうけどこれもその辺の匂わせがある感じはありましたねえ(調べたところ一応小説原作っぽいので厳しいかもしれませんが)