愛せる映画『アイ・フィール・プリティ!』感想文

《推定睡眠時間:0分》

ザ・UKな憂いを帯びたキラキラ牧歌メロディにマット・ジョンソンの塞ぎ込んだ歌声が乗るザ・ザの日常系溜め息ソング“This Is The Day”が流れるタイトルバックで既に共感の嵐。
ちょっとこうボディラインを細くして体脂肪率の低い感じにしていや要するにモデルみたいに…ということでフィットネスクラブを訪れたごんぶとレディのレネェ、受付でレンタルシューズのサイズを訊かれて小声でこんな風に答える。

「に、25…(いや、ちょっと恥ずかしいな…)すいません24.5です…(いやいや、それじゃ小さすぎて足痛めるって…)あ、いや、26.5でした…(そうだ私はトレーニングに来たんだ…ここは恥を忍んで正直に…)26.5の幅広を…」
受付の女、大声で、「26.5っすか? 26.5の幅広っすね? はい26.5の幅広一足お願いしまぁぁす!」

あるわーこないだあったわー俺は短足だからズボン買うときはかなり丈を詰めてもらわないといけないのだけれどもーレジで気持ち小声でサイズ言ったら三回くらい聞き返されて最後大声でバックヤードに向けてウン十センチ入りまーす! 的なことを元気ハツラツ店員に言われて死んだわー。
逃げるようにその場を後にしようとしたら後ろの方からそのかどで元気ハツラツ店員を注意する先輩店員の声が聞こえてきて追い打ちで更に死んだわーロマサガだったらキャラロストしてるわこれー。

っていう身体コンプあるある。そのうえレネェの職場、靴とか化粧品とかメインに扱うちょい高級めのファッションブランドのオンラインショップ部署。その場所、ピッカピカで背の高い本社ビルから色んな意味でだいぶ離れたチャイナタウンの雑居ビルの地階。従業員レネェと愛嬌のない西田敏行の2人。

そこで商品の写真撮ってサイト載せたり発送返送の手配したりクレーム処理したりというのがレネェのお仕事なのだったがうわ俺じゃんそれー俺のバイト先は従業員2人ではないですけれどもあの西田敏行みたいに職場でパンツ見えても気にしない人とかいるものーレネェが「それやっちゃったら社会人としてもうダメだろ!」ってキレてたような人生半分捨ててる系の人いるんだものーだいたいそういう業務内容ですしねー。

感情移入とか共感の度合いで映画の良し悪しが決まるものではないと思いますが、とはいえ共感の力は強い。こんなあるあるで攻められたら好きにならざるを得ない。
ていうか俺はThe Theが好きで半年ぐらい前に”This Is The Day”の収録されたThe Theのアルバム”Soul Mining”のマイブームが来ていたのでそしたらもう、”This Is The Day”流れただけで好きなっちゃいますよ、そりゃあ。

さてレネェがなんで痩せたいかっていうとこの人は実は会社人間で、せっかく憧れの会社に入ったのに華もなければやりがいもないオンラインショップの部署に配属されて不満タラタラ。
本当は本社の受付嬢をやりたいのに! でもファッションブランドの受付嬢だし今の自分のスタイルじゃ8000%無理っぽい。

犯罪ルポ漁りが趣味の不穏ぽっちゃりと総合格闘家みたいな頼りがいのある馬面の親友ふたり(こいつら最高)は今のレネェのままでいいじゃんみたいな感じではあったが、会社人間のレネェとしてはそうもいかない。
どうしたら痩せられるんだろう。悩みながらカウチポテトのレネェ(そういうところだろ)はテレビでトム・ハンクスの『ビッグ』を目にする。神頼みなんかで背が高くなるもんかねぇ…。
その数分後にはフィットネスクラブの女神像に向かって私を超ビューティホーにしてくれと叫んでいるレネェであった。

果たしてその願いはすぐに叶ってしまう。フィットネスクラブでの不慮の事故で頭を強打、自分が超美人に見えてしまう病に罹ってしまったのだ。
めちゃくちゃ重症であるがそれからのレネェは超前向きで超自信満々で超何事にも動じない人になったので周りの人も病気だろとはなかなか言えない。
どころかそのギャップが面白がられたり憧れの的となってレネェ株は急上昇していくのだった。

うん、よくある話だ。めちゃくちゃ良くある他愛のない教訓的アメリカ映画だ。でも俺は好きだなこれ。
なんつってもレネェ役のエイミー・シューマーが面白いし。その勘違いっぷりと反面の等身大自虐女っぷり、巧かったなぁ。ドラッグストアでの店員コントは間も完璧で大いに笑った。

あとレネェの周りの人間が会社の重役まで含めて良い人っていうか普通の人なんすよね。別に悪いこと企んだりとかしないし、かといって良いことも企んだりしないしみたいな。
満ち足りた生活を送っているわけではないけど、でもまぁそんなに今の生活も嫌じゃないしみたいな。電気グルーヴの例の曲じゃあないが。

そういう人たちの醸し出す柔らかい空気感。その中で全力で空回りする豪腕レネェの滑稽。で、その普通の人たちにもちょっとだけカッコイイとこあったりするじゃんっていう見せ場を作るのも忘れない。
良い映画だったと思いますよ。説教臭くならない程度にジェンダーロールとかルッキズムからの解放を物語に取り入れていたりしてね。

そういう啓蒙要素はもうちょい予算規模が大きい映画になると途端に胡散臭くなったりするんで、このぐらいの予算規模の小品コメディが一番素直に伝わるなぁとかも思ったりしたな。
小品には小品にしかできないことがあるんです。大作やら名作やら傑作ばかりが映画じゃねっての。

【ママー!これ買ってー!】


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実は観たことがなかった。

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