CGわんちゃん大冒険映画『野性の呼び声』感想文

《推定睡眠時間:25分》

実写風CG版『ライオン・キング』はサバンナ動物をリアルなCGで表現していたがアメリカ西部の金持ち屋敷で飼われていた甘ったれのわんぱくワンちゃんが犬さらいに拉致され理由も分からずカナダ/アラスカの大自然をサバイブする羽目になる『野性の呼び声』もたぶんおそらくオールワンちゃんリアルCG。ワンちゃんには過酷なアクション満載も全部CGにやらせてるので誰も怪我とかしてない安心安全映画です。う~ん、どうなのそれは!

なにもワンちゃん俳優に無茶なアクションをさせろとは思わないが…でも『野性の呼び声』だしな…野性っつってんのにCGっていうこの、野性へのリスペクトのなさ。しょせんハリウッドの考える野性などその程度のものと言われればそうかもしれないが、もうちょっとリアルな野性を撮ろうとしてもいいじゃないの…これ同じこと実写風CG版『ライオン・キング』観たときにも言ってるな。進歩がない(俺が)

いろいろ事情もあるんでしょうけれどもさ。アニマルライツっていうのがやっぱ大きいんじゃないですか。サーカスのどうぶつショウとかもアニマルライツの観点から近年は縮小傾向にあるし、まぁ自分から好き好んで舞台とか撮影に立つどうぶつは普通いないですから、基本的にはこういうの全部人間が無理矢理やらせてるアニマルライツの侵害案件ってことになる。アニマルライツの適用範囲をどこまで広げるかは議論の余地があるとしても、どうぶつが無理矢理出演させられてるっていうのは事実なわけでしょ。

そしたらもう、撮影で出演どうぶつに怪我とかさせちゃったら非難轟々。現場は戦々恐々で出演どうぶつに無茶はさせられないからダイナミックなシーンは撮り難い。っていうかそもそも、アニマルライツをガン無視したとしてもだ、しょせん映画の概念すらよくわかってないワンちゃん俳優に作り手が望むとおりの演技を付けるのは至難の業。ならCGで全部作っちゃえばいいじゃんそっちのが面白くなるしってなるよね。そういう感じでしょたぶん。あらゆる面でリアルどうぶつ俳優の起用は作り手にメリットがない。もちろん作家的こだわりがあれば別かもしれないが。

というような大人の事情を面白いとか面白くないとか以前に考えさせてしまうので安易なCGどうぶつの使用はよくない。いいよ別に、そんな派手なアクションとかいらないんだよ。だいたいなんだってできるCGどうぶつにリアルどうぶつ的な限界アクションをさせてもつまらんだけだろう。他の映画ならともかく『野生の呼び声』に関しては自然界およびどうぶつ俳優に敬意を払ってちゃんとリアルなワンちゃんを起用して欲しかったよな。

別に無理はしなくていいんだよ。できる範囲のアクションをやってくれればいいんだよ。できる範囲のアクションをどうぶつ俳優が健気に演じてる姿を見せてくれって話なんですよ。いやそれ無理だろみたいなワンちゃん危機一髪的なシーンでカット割って急にロングショットに切り替わったりしてあーこれ無理だったんだなー! CGで誤魔化してるなこれはー! そうだよねリアルなワンちゃんには無理ですよねー! しょうがないよそれはー無理にやらせたら死んじゃうものねー! …って思いたかったんですよ俺は。

クマと対峙したりするような緊迫感のあるシーンで普通の表情しちゃってるとか。全力で逃げてるはずのシーンなのに走り方が楽しそうとか。そういうのが逆にイイっていうのあるじゃないですかどうぶつ映画。その頑張りと頑張りではどうにもならない部分にグッとくるっていうのが。CGどうぶつのハイパーアクションはそういうのないからな。情緒がないんだ情緒が。表現力豊かなCGワンちゃんたちが可愛いのは認めるがそういうことじゃないんだ。

とはいえCGどうぶつを許容できればなかなか波瀾万丈でたのしいどうぶつ映画だったとは思う。なんつっても主人公のセントバーナードくんの成長ね。最初は雪を踏むのも恐る恐るだったバーナードくんも初めての労働(犬橇)、初めての仲間、初めてのイジメや初めての恋愛などを通じて立派に野犬化。最初は無邪気で可愛かったバーナードくんも最後は威厳たっぷり可愛さナシ。アニマルライツ等々もあろうがその演出効果のために、観ている側に別れの切なさを最大限感じさせるためにCGワンちゃんを使ったのだとすれば考えたものだ。リアルなワンちゃんだとさすがにこうは変わらないし、だいいち変えられない(物理的に)

これが今日的な捻りなのか有名らしい原作に由来するものなのかは原作未読の俺にはわからないがバーナードくんのおうちが西部の豪邸で黒人庭師とか雇ってるところ、対して犬さらいに連れて行かれたゴールドラッシュ真っ最中のカナダ/アラスカでは黒人とかイヌイット?の人が自営業的に働いていて、そこでこの人たちは誰かの下僕ではなく自分が自分自身の主人となっている、という対比もおもしろかった。

何をするにせよアラスカの豪雪地帯で働くって大変なことです。それでもアメリカ西部なんかの暖かな下僕暮らしよりも過酷なアラスカ暮らしをこの人たちは選ぶ。自由ってなんだろうって話ですよね。バーナードくんは奴隷としてその地に連れて来られて自分の意志とは無関係に犬橇犬にさせられるわけですが、その中で西部のぬくぬく暮らしの中では気付かなかった野性の力とか自由に目覚めていく。率直に言えばその手のやればできる式アメリカイズムが俺は嫌いなので鼻白むこと多々ではありましたが映画としてはまぁそれなりによくできていますわね。

でも難点がひとつ。CGワンちゃんのバーナードくんがあまりに表現力豊かなので中に人間が入っているように見えてしまい、ハリソン・フォードの出演を念頭に置いて観るとハン・ソロとチューバッカの出会いをチューバッカ目線から描いたスターウォーズの外伝に思えてしまう…難点じゃないか、面白ポイントかこれは。どうぶつ映画としてそれが面白ポイントでいいのかという気はするが。

【ママー!これ買ってー!】


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監督は名作『ヒックとドラゴン』のクリス・サンダースだそうで、そうと知ればどうりで! と膝を打つ箇所多数。

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