出オチ映画『バイオレント・ナイト』感想文

《推定睡眠時間:10分》

金持ち豪邸版の『ダイ・ハード』で主人公はくたびれたリアルサンタさんというのがこの映画を一言で説明する時の文言になるだろうがリアルサンタさんと『ダイ・ハード』というわくわくしそうな組み合わせなのにあんまわくわくしなかった。理由はいくつかあるがその一つは舞台が金持ちの豪邸っていうね。その地下金庫に眠る現金ウン億ドルを狙って強盗団が押し入ってちょうどそのときプレゼントを配りにきてたサンタさんがマクレーン方式で強盗団を一人一人ぶっ殺していくわけですけれども豪邸、住むには広いかもしれないけどさすがにテロリスト・アクションの舞台としては狭くない?

狭いっつってもそれ以上に狭そうな飛行機を舞台にして『エグゼクティブ・デシジョン』も『パッセンジャー57』も『エアフォース・ワン』も成立してるんだから狭さが問題っていうか舞台装置を生かし切れてないシナリオが問題なんだろうな。テロリスト・アクションって基本一対多数で戦うわけじゃないですか。正面から戦ったら勝てないからあの手この手を使って一人一人おびき出したり思わぬところから奇襲したりしてゲリラ的に。そのために主人公がその施設の構造をよく知る人の設定になったりして。ところがこの映画『バイオレント・ナイト』、そういう工夫を全然しないんだよな。強盗団とリアルサンタさんが場当たり的に対面して殺し合うだけ。これじゃあテロリスト・アクションとして面白くない。

作り手の狙い所はまぁわかる。あくまでもコンセプトはテロリスト・アクション風味のファンタジックなブラックコメディであって、本気のテロリスト・アクションを作ろうとしてるわけじゃない。基本的には笑える映画で、だから強盗団もなんだかかんだかマヌケでチープな人ばかり。困ったね。いやぁ、参ったな。俺は正直ちょっとイラっと来た。だってこの強盗団ときたら金持ち一家を何人も人質に取っててるくせに金庫の暗証番号を聞き出すために拷問したり反抗したヤツを殺したりとか全然しないんですもの!

コメディとして作ることと強盗をヌルく描写することは違うだろう。『ダイ・ハード』パロディの傑作『ゲームオーバー!』の強盗団もちゃんと主人公たちを殺そうとして襲ってきたし、この映画も参照している『ホーム・アローン』のマヌケな泥棒コンビだってちゃんといたいけなお留守番少年ケビンくんをちゃんと殺そうとします。敵が本気だからこそ主人公側の人が機知や腕力で反撃するのが痛快かつ笑えたりするのであって、こんな最初っから血を浴びる気の全然ないヤワな強盗相手ではアクションとしてもコメディとしても白けてしまう。

俺はこの映画を作った人は全然わかってないのだと思う。どうやったらアクションとして燃えるか、コメディとして笑えるか、全然わかってない。『ホーム・アローン』パロディだって何もわかってないと思う。金持ち一家の孫ちゃんが『ホーム・アローン』を真似て作った数々のデストラップで強盗たち死亡というのがそのパロディなのだが、そもそもネタ元の『ホーム・アローン』が「そんなトラップ食らったら死ぬよ!」というところで笑いを取る映画なので、『ホーム・アローン』を真似たトラップで強盗を死なせてもそんなもんパロディにならないんじゃないだろうか。クリスマス映画でいえば『ベター・ウォッチ・アウト』にも『ホーム・アローン』のパロディが登場するが、こちらは「あのデストラップを実際にやったらホラーになる」というツイストを加えているわけで、パロディとはそういうものだと思う。

わかってない、クリスマス映画としてもわかってない。この金持ち一家というのはまぁムカつくやつばかりなのだがムカつくのはいいとしても汚い手を使って貧乏人から金を搾り上げているろくでなしどもである。そいつらを襲撃する強盗団の頭目ジョン・レグイザムは自らを『クリスマス・キャロル』の強欲な金貸しの名を取ってスクルージと名乗るのだが、スクルージの名に値するのはどう考えても強盗団ではなくこの汚い金持ちどもの方だろう。

この汚い金持ちどもをリアルサンタさんが助けようとする。ちょっと待っていただけきたい。成り行きでそうせざるを得なくなったとしてもだね、自ら蒔いた種で強盗を招き寄せた汚い金持ち連中なんかよりもリアルサンタさんなら救うべき人々が他にいるんじゃないですか? たとえば虐待を受けている子供、ホームレス生活を余儀なくされた子供、難病に苦しむ子供、家族のために学校も行かず児童労働をしている子供…いるでしょたくさんそういうの。もちろんこれは『クリスマス・キャロル』を下敷きにした強欲金持ちが罰を受ける物語として見ることもできる。確かに最終的にはお金が全てじゃないよと改心した感じになる。しかし困った人々のためにお金を使おうとはしない。それでは仮に下敷きにしているとしても『クリスマス・キャロル』の核心を捉え損ねていると言わざるを得ないし、クリスマス精神にも反するんじゃないだろうか?

サンタさんが飲んだくれで暴力的だったら笑えるなというネタの映画は『バッドサンタ』がある。リアルサンタさんが武闘派オッサンだったらというネタの映画なら『クリスマス・ウォーズ』がある。リアルサンタさんの出てくる映画に激しいゴア描写を混ぜてみましたのネタなら『サタンクロース』だ。じゃあこの映画の独創性とか面白いところってなに? 俺には一つも見つけられなかった。展開は弛緩してテンポが悪いしアクション演出も平凡、ゴアもさほど力の入ったものではなかったし、ファンタジーを演出する小道具がドラえもんの四次元ポケットみたいになってるサンタさんのプレゼント袋と良い子悪い子リストというのもまったく捻りがなくて面白くない。

いや、面白いところが一つあった。サンタさんを信じてる金持ち一家の孫ちゃんが可愛い。そこだけはよかったね! そこだけでいいわけないだろ。

【ママー!これ買ってー!】


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似たような発想の映画だがクリスマス映画としてもファンタジーとしてもブラックコメディとしても更にはアクションとしてもこっちのが全然面白いと思うがそうやってなんでもかんでも優劣をつけようとするのはクリスマス精神に反するのでみんな違ってみんな良いとおもいますクリスマス大好き!

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