オタク万華鏡映画『クラユカバ』&『クラメルカガリ』感想文

今やすっかりアニメ映画がシネコン興行の柱となってしまったが、客が入るのはもっぱら原作もののアニメばかり。これはちょっと寂しいなと思っていたところに突如現れた謎の和製オリジナルアニメ映画がこの『クラユカバ』と『クラメルカガリ』。はていったいどんなものか。いずれも60分程度の2作品、観てきたので感想です。

『クラユカバ』

《推定睡眠時間:0分》

テアトル系列がメイン上映館ということで半年ぐらい前からテアトル系列の映画館では『クラユカバ』仕様のマナー啓発動画と予告編が必ず上映前に付いていてたぶんそれで最低50回は映画館で『クラユカバ』の予告編観てる。『時計じかけのオレンジ』か。そこまで刷り込まれたら脳は正常な善悪判断などできないので好きとか嫌いとか面白そうとか興味あるとかそういう問題ではなくただもうなにか自然と「あ、『クラユカバ』やってる。観に行こう」となってしまった。おそろしいことだなと思う。

内容的には大正ロマン×スチームパンクの幻想譚という感じの探偵もので、空想帝都の片隅に生きる貧乏探偵とかいうベタな設定の主人公(演:神田伯山)が消えたチビッコ情報屋を探しに覆面党なるギャングが根城にしていると噂の地下空間クラガリに潜ると云々。詳しいことは知らないがなんでもこれクラファンで制作費を集めた映画だそうで、非商業というわけではないにしてもクリエイターのやりたいことはおそらく完全商業のアニメ作品よりは遥かに自由にでてきたであろう、見所はやはりその世界観とビジュアル。江戸川乱歩の歩いた浅草のような絢爛にして怪しくユーモラスでありながらどこか不気味な空想大正およびその地下空間は往年の奇ゲー『クーロンズゲート』を思わせるところであり、そこに仏頂面の軍服戦闘少女や鳥山(合掌)メカ的なデフォルメ歩行戦車までぶちこまれる。ジャンルもアクション、ミステリー、ファンタジー、とコロコロ変わってやりたい放題の感強し。

やりたい放題といってもこう書けばわかるだろうがちょうど同日日本公開の『リンダはチキンがたべたい!』のようにアート的ということではなく、滲みの効果を生かした紙芝居風味の色合いなどはアート的こだわりを感じるところだが、デザイン面でもストーリー面でもアニメオタクの好きなものを好きなだけ入れたような感じで、オリジナリティとかは案外薄く画面のどこを見てもどこかで見たものだらけ。でもそこに作り手の「これが好き!」が見える気がするので別にイヤな気分にはならない。

「これが好き!」だけが趣味的に詰め込まれているのでメリハリに欠いてあんまり盛り上がるところがなく、一時間ちょっとの中編に長編二本分くらいのキャラとアイデアを出してるので展開がダイジェスト的に見えてしまうというのは難点かもしれないが、アニメオタクの頭蓋骨に穴を開けて顕微鏡で直接覗き込んでいるかのようなオタク万華鏡世界に心地よく幻惑させられてしまう、これはなんだかそんなような映画であった。ちなみに個人的にこの映画から連想したものは『ペルソナ2 罪』『妄想代理人』でした(今敏めっちゃ好きな人が作ってると思う)

姉妹編の『クラメルカガリ』も公開中だそうなのでそちらももし観たら感想をここに追記しよう。物語上のつながりはないようだが、おそらく都市の地下に秘められ広大な闇の世界=人間の心の深層という設定は共通していると思うので、まぁなんかそういう感じの映画になってるんじゃないかと思います。なに、そういう感じの映画って。

『クラメルカガリ』

《推定睡眠時間:8分》

というわけで『カガリ』の方も観てきたんですがこちらは『ユカバ』よりも全然商業アニメ的に作られていて、そのぶん『ユカバ』の濃密感はないので映画体験としては弱いところもあるのだが、個人的にはこっちの方が面白かった。共通点は大正スチームパンクの世界観と街の地下が舞台として出てくるというぐらいで絵柄も違うしストーリーも別物。地下空間を人間の心の象徴とするようなところもなく、『ユカバ』が大正ロマンの『クーロンズゲート』なら、『カガリ』は『ファイナルファンタジーⅦ』のミッドガル編かその元ネタの一つの『銃夢』に近いんじゃないだろうか。思弁的なところはなく、ストレートなSF活劇となっていた。

主人公は地図作成が趣味の地図師の少女でこいつがスチームパンクというよりかはサイバーパンク的な日夜崩壊と改築を続ける多層都市の構造を記録して売りさばいて糊口を凌いでいるという設定がまず魅力的、そのキャラクター造型もオタクに媚びるような感じはなくヤングアダルト小説の主人公のような普通っぽさで、親近感が持ててかなりイイ感じだ。その主人公が地図を作りに地下に潜ったりなんかしているうちに思わぬものを見つけてしまい、巨大な街にうごめく様々な寄り合い=トライブの抗争に巻き込まれる。スケールやテーマを広げすぎていささか持て余し気味だった『ユカバ』と違ってこちらは単純なプロットだから、その単純さが『ユカバ』の方では埋もれ気味だったキャラクターの魅力をしっかりと引き立て、この映画が商業アニメ的という所以である。

それでも『ユカバ』同様60分程度の尺に収めるには多くの要素を詰め込みすぎて、状況説明のためのミディアムショット中心のカット割りが平板さを生んでいた『ユカバ』と比べれば、この『カガリ』の方は少なくとも序盤は多彩なショットを組み合わせて余裕のある画作りと語りがなされていたのだが、『ユカバ』ほどではないにしても群像劇的な趣のある登場人物の多い物語なので、終盤はやはり駆け足、そのためドラマがあまり盛り上がらず、とくに主人公の仕事仲間の地図師少年の心理描写が足りないので、その行動にあんまりグッとこない。

キャラクターも舞台設定も魅力的なのだからこれだったら無理に60分の劇場用アニメとして作らずに普通に1クールのアニメとしてもっとじっくり話を進めてもらいたかったナァとか思ってしまうがまぁ1クールのアニメをクリエイターの意志で作れるわけでもないし、これがパイロット版になって配信アニメとしてシリーズ化されたりすればいいですねと思う。ちなみに終盤は『ユカバ』と同じくやはりしっちゃかめっちゃかな大銃撃戦になるのだが、俺は長い銃撃戦が始まると眠るようにプログラムされたAIなので、しっかり意識を喪失しました。いったい誰が何の目的でそんなプログラムを…!

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