こども音楽映画『オーケストラ・クラス』の感想

《推定睡眠時間:0分》

あれこんな映画ちょっと前になかったかねと思って記憶をまさぐると『ストリート・オーケストラ』という2015年のブラジル映画で、これも小学校高学年ぐらいのあんまりお金がない系キッズたちにプロ人生を諦めかけた気難しいバイオリニストがクラシックを叩き込むお話だったからよく似ているし、なんなら俺どっちも同じ映画館で観てるから既視感スゴイ。

その『ストリート・オーケストラ』でクラシック授業が行われるのはスラムなバスケットコートの青空教室。音響的にも騒音的にも最悪かもしれないが開放感があって精神衛生上よろしいしおもしろい組み合わせ。
青空教室の悪ガキッズたちが奏でる意外な美音に思わず聞き耳を立てるに留まらず家の外に出てきてしまったりする近隣住民、とかベタかもしれないが音楽の持つダイナミズムと可能性がみごとに活写されていてたいへんよかった。

一方『オーケストラ・クラス』の方は学校敷地内の端っこの方にある体育倉庫みたいな狭い汚い暗い教室がクラシック授業の舞台。
なんかもう既にして陰気な感じであったがそこにやってくるのは気持ちテオドール・アドルノ風の黒縁メガネハゲバイオリニスト(ハゲで黒縁メガネだったらなんでもアドルノかよという気もするがでもこの人は本当にアドルノ風なんだよ…)だったから『ストリート・オーケストラ』みたいな高揚感は絶対にないなと開始5分で確信する。

案の定、陰々滅々とした展開でこのアドルノ(風)、授業の邪魔だからと口が悪くてすぐ喧嘩するアラブ系の移民キッズに暴力を振るって教室から排除した上に息子を殴るとはどういうことだと学校に殴り込んできた強面で直情的だがわりと息子思いの良い父親に殴ってないと俯きながらボソボソ嘘をついたりするから酷い。

最初は完全に無視していたが授業を通して音楽の才ありと見るや他の生徒などそっちのけで黒人ぽっちゃりキッズに入れ込むアドルノ(風)。
その家にお邪魔するとシングルマザー家庭、教育熱心で教師に悪印象を持たれたくない真面目な娼婦の母親とディナーしていたらなんとなく良い雰囲気になってしまって踊りだすがそれを見ていたぽっちゃりキッズはメンタルダメージを受けて泣き出してしまう。

本職ではないとはいえなんか全方位的に教師失格なアドルノ(風!)なので見ている側にも全然音楽の楽しさとか素晴らしさとか教えてくれない。
アドルノがプロのバイオリン技を披露する場面も取り立てて感動的な音が出るわけではないので見ているこっちも生徒同様に困惑しきりだ。

どうせえっちゅーの。アドルノの下でロクな指導も受けられないまま地区の合同練習に参加、自分たちのあまりの下手さに大ショックを受けるキッズたちの顔は音楽の力を信じて映画に臨んだ俺の顔と一致した。

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でも本筋は結局そういうところじゃねぇっつーかこのへん実にフランスらしいなぁと思ったのですが、本人的には色々頑張ってはいるがやっぱ音楽教師としてアドルノ全然ダメなので、それでも音楽やりたくなっちゃったキッズたちは自主練やったりして自ら音楽を作り上げていくわけです。

音楽は上から与えられるもんじゃねぇと。コンサートマスターに唯々諾々と従う上意下達のシステムなんて真っ平だと。そんなもんが欲しくて音楽を選択科目に選んだんじゃねぇよみたいな。まあコンサートでは指揮棒に従うわけですが、みんなで一緒に音楽やるために自ら従うというのが大事。

アドルノは頼りにならないがキッズたちは本気だ。この音楽教室のキッズたちは低所得層とか移民とか人種的マイノリティとかが多いが、ポジション的にフランス社会の外部を常に意識させられているからというのも多分にあって、親の教育にかける熱意も並々ならぬものがある。

そんなにウチの子どもが音楽やりたいんなら親として協力せんわけにはいかんだろってことで頼りにならないアドルノに代わって保護者連合が本気を出す。
あのボロい教室がダメってんなら俺の会社の倉庫を貸してやってもいいぜ。そりゃあ名案だ、左官は俺に任せろ。じゃあ必要な資材は俺が…的な。

なんの映画かといえばつまりそのような繋がりがどのように出来上がっていくかということの映画で、従ってクラシックとかバイオリンとか添え物のようなもの、そんなことより一緒に音楽をやるキッズたちプラス親の小さな衝突とか衝突の後のいつの間に的な関係修復とか生々しくぬくぬくと描かれるのだった。

なんでお前そこで泣くんだよもー、とか。結構本気で痛そうだが大した怪我はしなそうなキッズ喧嘩の絶妙なリアルヒッティング加減、とか。いつもゲヘゲヘ笑ってる愉快なキッズがクラスで喧嘩始まっちゃって急に笑い止むところの妙な可笑しさ、とか。
調子に乗って喧嘩腰のイジリ漫談独演会を始めたはいいが段々とクラスの空気が悪くなってきたのを察知して喧嘩トーンを弱めるがだからといってそこで引くのも勇気がいるのですげぇ微妙な感じの面白くない独演会を長々と続ける羽目になってしまった悪ガキッズのへっぽこ感とか素晴らしかったですね、こどもリアルで。

そういうのが映画の主役なので音楽と一緒に主人公だったアドルノも次第に後景に退いていって最後にはほとんど見えなくなってしまう。
コンサートの規律とハーモニーに守られた単独性の美と同質性の安楽から抜け出して、不安の中で次の世代に音楽を託そうとするアドルノの姿はなかなかに崇高であったし、それに応えるキッズたちもたいそう立派であった。よかったです。

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こっちはもっと音楽だらけでノリノリな感じ(ただし悲惨度はこっちの方が高い)

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さるこ

こんにちは。やはり、「ストリート」と「クラス」の違いでしょうか?ブラジルのあれは最後にクレジットに悪さしてたけど良かったな。フランスのこれも子供の会話がリアル(っぽく)て良かったな。〝セクシーな頭〟テオドール・アドルノ、ググっちゃいました。色んなことご存じですね!

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