良かった感想『かぞくいろ-RAILWAYS わたしたちの出発-』

《推定睡眠時間:0分》

まずシリーズになっていた事を知らなかったのでなんか同じようなタイトルが二回ぐらい映画館にポスター貼ってあるの見た気がするなぁぐらいの認識で劇場に入り『RAILWAYS』シリーズ三作目であったことがサプライズ発覚。

いや別に、この映画自体は面白かったから貶すわけじゃないんですけど三作目って。知らないよ知らないですけど絶対にそんなシリーズ化するほど観客動員できてる映画じゃないだろこれ。

地方鉄道に材を取った人間ドラマだからあれか、客とかそんな入らなくても制作の要望とかお金はあんのか、赤字路線とか第三セクターの観光系鉄道とか抱えた地方自治体とかからの。
これはちなみに鹿児島の肥薩おれんじ鉄道というものが取り上げられてました。気動車の単行でいかにもな風情あり。

それにしても地方の観光振興系映画はほぼ例外なく鉄道と橋を推してくる。マジなんなんすかね。お前らそれしか売るものねぇのかよって思うぞいつも…ないから映画なんかに頼るのかもしれないけど。
愚痴はいい。面白かったからそのへんの愚痴はいい。というか、観光振興映画なのに全然ロケ先を美化しないところが面白かったし素晴らしかった。

有村架純は妻を亡くしたシングルファーザーのイラストレーター青木崇高の後妻。その青木崇高も子供と架純を残して逝ってしまったので有村架純、若くして子連れの未亡人に。
バイトも頑張ってはいるが亡き夫の残した借金もある。ちょっとこれじゃ生活無理っぽかったので夫の父・國村隼を頼って鹿児島までやってくる。すいません住まわしてください。

青木崇高は筋金入りの鉄道マニア。血は争えないのか鉄道英才教育の賜物か、息子の歸山竜成も鉄道一筋のマニアっ子として順調に育っていた。
別にそんなに関係が悪いわけではないがそれでもやっぱり距離はある有村架純と歸山竜成。ちょうどその時、件の肥薩おれんじ鉄道で運転手を務めている國村隼は引退準備の真っ最中。

というわけで有村架純は自力で生計を立てるためにも鉄道好きな息子との距離を縮めるためにも肥薩おれんじ鉄道の運転手を目指すことに。
で、それをきっかけに訳あって息子の青木崇高と半絶縁状態にあった國村隼も自分を見つめ直していくのだった。

いやぁ王道。スーパー王道。地方アゲ全開。こんなのあらすじだけ聞いたら速攻見ないでもいいかもしれないリストに入ってしまうが、見たら面白いんだから映画わかんないもんっすね。期待値マイナスから見てるので相対的に、というのは多少あるにしても。

それでまず良かったのがやっぱそういうシリーズなんで鉄道周りのシーンが実地ロケ満載でいっぱい出てくる。
まず肥薩おれんじ鉄道の車両内、それから外からの走行風景。まぁ当たり前ですよね。でもこれが、宣伝臭さが薄くて映画に自然と馴染んでいて良い。

肥薩おれんじ鉄道は食堂車イベントというのもやっているそうで、宣伝なのでそれも当然のこと再現するのですが、どこでというと新人運転手・有村架純が思わず緊急停止してしまって自信を喪失する場面の背景として。
そうよね緊急停止とか停車位置オーバーとか平常運行だったら多少胃が痛くなっても修復可能な範囲でしょうけど、売りのイベントである食堂車で緊急停止はめちゃくちゃメンタルダメージありますよね。その物語への宣伝の組み込み方、立派だとおもった。

それから車両基地が出てくる。気動車への給油シーンが見れたりしてそれも面白かったが、数ある鉄道映画の中でも貴重かもしれないのは、運転手志願者の物語であるからJRの鉄道教習所的なシーンがあるところ。
ほんの数カットだけなんですが、こういう場所あるんだなーこういう事やあるんだなーみたいな。なんかお勉強になりましたし興奮しましたよ。『電車でGO』やりたくなったもん。

こういう華々しい鉄道賛歌映像の一方、有村架純&歸山竜成のドラマ部分はわりと厳しい現実感ありあり。
突然ゆかりのない土地に越してきた都会者二人の疎外状況が透徹したタッチで描かれるので、地味なイジメとか保守的な価値観との微妙な衝突もストレートに出てくるし、それを情緒的に解決したりとかそういうセコイ真似はしない(※俺の感覚では)

身内の死とか都会と地方の価値観の相克とか、かすがいを欠いた中での血の繋がらない人間との親密な関係の構築とか、そんなの列車の運転が一日で上手くなるわけがないのと同じで一朝一夕に解決できる問題じゃないのだ。
ということをさりげない回想シーンを織り交ぜつつゆったりと流れるような編集で積み上げていくので、なんかやたら好感度高い感じである。

助演陣のポイント起用も効いてたな。特に現場に出ない方の鉄道職員・木下ほうか。この人とにかく骨がなくてふにゃふにゃと信用できない。
でも嫌なやつとか使えないやつっていうんじゃなくて、あぁこういう上司いるなっていう、ちょっと笑えるぐらいなところに踏みとどまってるあたりすげぇ良かったですね。

朴訥な國村隼はもちろんハマリ役だし、周囲の大人に気を遣って色々溜め込んでしまう歸山竜成の屈折感も、それから有村架純のそこらへんのプチヤンキー女っぷりも沁みたなぁ。
ちゃんと物語を語るとか、ちゃんと俳優を撮るとか、ちゃんと電車を撮るとか。そういう一つ一つをどれも蔑ろにしないですごい丁寧にやってる映画って感じで、いや面白かったですね俺は。

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監督の吉田康弘という人、ほかに何をやってるんだろうと興味が湧いたのでフィルモグラフィーを見ると井筒監督の『黄金を抱いて翔べ』とか『ヒーローショー』で脚本書いた人らしいのでなんとなくなるほど感。
ちなみにこれは監督作だそうですが絶対江ノ電出てるので(※未見)わりと鉄道と縁がある人の可能性がある。

↓シリーズ作

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