映画の感想『キングスマン:ゴールデン・サークル』(ネタバレなし酩酊あり)

《推定睡眠時間:0分》

前作は国内レイティングR15+だったそうだから続編のPG12は描写的にマイルドの証左。確かに血が出ない、人体の切断などはあるがカメラが切断面に寄ることもない。
フジリュー版『封神演義』で妲己ちゃんが姫昌にしたのと同じ仕打ちをカンボジア奥地にオールディーズ趣味で彩られた秘密基地を築いたヴィーガン麻薬王ジュリアン・ムーアも裏切り者に対して行使するわけだが血が出ない、人間ミンチマシーンに放り込まれた人体からブシャーって血が飛び散らないのは興行的判断か、マシュー・ヴォーンの成長か、教育的配慮か。

ドラッグに手を出したやつはみんな狂って死ぬというのが今回のキングスマンであったから教育的配慮の線もあながち冗談とは言えない。
考えてみればだ、前作はスマホばっか見てるやつがみんな死ぬ映画だったし金を持ってるのに自分のことしか考えないやつがみんな死ぬ映画だったし差別主義のやつがみんな死ぬ映画だったしお酒は楽しくマナーを守って適量飲もうという映画だったから肉体啓蒙の結果だいたいみんな死んでるがこれが啓蒙の弁証法というもの、ゴルサー(※ゴールデンサークル)のドラッグに手を出したやつはみんな死ぬも含めればクソガキ啓蒙映画以外の形容詞を探す方が困難だろう。悪いことをしたら死ぬ。

急に啓蒙の弁証法とか言うのは前作から続投のスパイ補佐官マーク・ストロングがテオドール・アドルノっぽい見た目だったからです。似てるので検索してみてください。極めて似ている。極めて似ている。
そのマーク・ストロングの風体に更に似せてきたハル・ベリーが今回のベリーなみどころ。ジュリアン・ムーア勢の攻撃によっておよそ二分未満で崩壊したキングスマン残党が頼りにするのが酒蔵発祥のアメリカンひみつスパイ組織その名もステイツマンであるがそこでのマーク・ストロング的ポジションがハル・ベリーで、あっはっはマーク・ストロングと並んでお仕事している場面おもしろかったですねー、似すぎ、似合いすぎ。

レイティング配慮を許したように(許したのか、無理矢理そうされたのかはわからないが)多分に思想信条趣味趣向を抑制してきたマシュー・ヴォーンに敬意を表して酩酊文も少しは改めるべきだろう。
そうだなぁ。『キングスマン ゴールデンサークル』、面白かったなぁ。ぎりぎりラインでファミリー向け、パッパパッパと場面変わって面白いアクションとギャグの連続、チャニング・テイタムお前はなんなんだ! 変なキャラクターもいっぱいだ。ドラッグいじり要因のカメオ出演と思われたゲストスターのまさかの大活躍にはめっちゃ盛り上がるのだった。

盛り上がる映画である。またクソガキ向け啓蒙映画でもある。レイティングきびしめの前作がストレートにバカ悪趣味映画(ほめことば)だったのに対してこちらはおバカお下劣映画ぐらいにはやわらかくなっている、視線が。
こんな映画を見たことがあると思った。それも頻繁に見ていると思った。クソガキ、啓蒙、おバカお下劣と今回抑え気味だが監督のオタク系趣味そしてゲストいじり…映画クレヨンしんちゃんじゃないか。

そう思えば全部がそう見えてくる。オフの時の私服タロン・エガートンがしんのすけに見えてくる。コリン・ファースが野原ひろしに見えてくる。馬鹿なのか。馬鹿じゃないよ! 今回のコリン・ファースは映画クレヨンしんちゃんで言うところの! 言うところの! 言うところのあれだったからちょっと泣きそうになったよ!
毒ドラッグ使用者が変な踊りをするようになるところは『アクション仮面VSハイグレ魔王』だ。ジュリアン・ムーアの役柄はあれだな『嵐を呼ぶジャングル』のパラダイス・キングとかですね。

馬鹿か。だから馬鹿じゃないよ! 見比べてみろよ! マーク・ストロングとテオドール・アドルノを見比べてみろよ! ゴルサーと『嵐を呼ぶジャングル』を見比べてみろよ!
見比べて、仮に似ていたとしてもなにもない。俺は暇だが世間はそこに無為な価値を見出すほど暇ではないだろう。類似とダジャレは幼児の戯れであって社会人の嗜みではない。
いずれにしてもEP1以降のスターウォーズは藤子・F・不二雄の世界観に寄せて来ている説を提唱するカルト的異端者の言うことだから真面目に相手にすべきではないしされても困るので…でもEP1以降のスターウォーズは藤子・F・不二雄に寄せてきてるけどね! やめよう。

どうしても文が酩酊する。それぐらい面白い気分にさせてくれる映画であったということか。俺は前作より全然好感抱きましたよこっちの方が。なんか、前作は暗い情念の渦巻きを感じたが、アメリカに舞台を移した続編は随分とっ散らかってはいるがカラっと単純にハッピーだ。暗い映画を好むがハッピーな方がよい時もある。今がそれだ。正月だし。
不満点を述べるならば、途中でスパイ一行がグラストンベリー行くんですよグラストンベリー。おぉ! ってなるじゃんグラストンベリー行くんだもの。これはなにか起きるぞと人多いしグラストンベリーだし。どんな曲使ってくるんだろーどんなアーティスト出してくるんだろーどんなグラストンベリーだろーってなるでしょグラストンベリーだし。

あんま何もなかったわ、そこ。ライブシーンとかなかった。フェス感もなかった。せいぜいあったのは膣だけだえぇ膣いいのかよPG12で!
でもあるんだからしょうがねぇわけであるCG膣内映像が。絶対に間違っているとはおもうが俺はその映倫の間違いを断固支持しますよ。
本当は断固でダジャレを言おうとしたが、紳士だから言いません。

【ママー!これ買ってー!】


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これが『オトナ帝国』の前年の作というのは誠に不幸なことであって翌々年には『戦国大合戦』が来ちゃうわけだから不憫極まりない。
原恵一の映画しんちゃんは『オトナ帝国』と『戦国大合戦』だけじゃないだろ『暗黒タマタマ』も『温泉わくわく』も『ブタのヒヅメ』も全部おもしろいだろというのを踏まえた上で『嵐を呼ぶジャングル』を推すのはまさに! マナーが人を作るいやヒーローを作る! を地で行くガン泣きヒーロー映画だからだがゲストスターの最高の使い方にインマイハート万雷の拍手という点でもゴルサーと被ったなこれは。

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