ジョー・ダンテの『ムービー・オージー』を観たという思い出

《推定睡眠時間:15分》

国立映画アーカイブで上映されるということで観に行ったら近くの席のジジィが隣席のおそらくワカモンに「私なんかの世代には昔テレビで観た懐かしい映像ばかりでねぇ…あなたみたいな若い人はどういう気持ちでこれ観てるのかなと思って」みたいな感じで話しかけてワカモンにあぁそうなんですねとかなりの塩対応をされていたのだが(相手してやれや)、そうかそういう視点でこの映画?作品?悪ふざけ?なんと呼べばいいのかわからないがともかくジョー・ダンテ監督によるこの『ムービー・オージー』を観る人もいるのだなぁと思ったらなんとなく感慨深いものがあった。

昭和ラスト世代の俺にとってジョー・ダンテというのは結構馴染みのある人で、その監督作『グレムリン2』『ゴーストバスターズ』『ホーム・アローン』、あと『ビバリーヒルズ・コップ』とか『プレデター2』などと並んで映画の原体験といえるもの。おそらく金曜ロードショーか日曜洋画劇場だと思うのだが上に挙げた映画というのはよくテレビでやっていたので、それを観て俺は映画なるものを知ったわけである。ジョー・ダンテ自身も映画かどうかは知らないが映像作品の原体験は映画館ではなくテレビという世代で(※ダンテの初期作『エクスプロラーズ』は謎の電波を受信した子供たちが宇宙船を作って異星の発信源に向かったらそこにいたのは地球のテレビが大好きで四六時中テレビばかり見てる友達がいないボンクラ宇宙人だった、というお話であった)、そのダンテが学生時代に作った『ムービー・オージー』で無断引用された様々な映像の断片を私はリアルタイムでテレビで観ていたと語るご老体がこの上映会の場には居る…様々な世代の映像原体験が『ムービー・オージー』でひとつに繋がるというこれはなかなかイイ話ではないかと思う。

さて『ムービー・オージー』であるが、こんなシロモノの感想を書いてもしょうがないんじゃないかという気もするのだが、ある映画サイトに「ホラー映画の名場面集」なんぞと又聞き知識で誤って紹介されているのを見たりもしたし、今後日本の映画館で上映される可能性はまず無いと思われるので、一応観た人間の一人として記録に残しておくかという気になった。上映後にあった早稲田大学かなんかのダンテ大好き教授の講演でもみなさん後生に語り継いで下さいねと言ってましたしね。この教授の講演おもしろかったな話が上手くて。

『ムービー・オージー』。ある種の映画マニアには言わずと知れたジョー・ダンテ監督のおそらくまとまった形のものとしては初の映像作品。内容はおもに50年代の様々なB級映画やテレビ番組、コマーシャルを完全無許可でパッチワークしたもの。無許可なのでミッ某キーマウスなども無断出演しており豪華ですね。無許可というのはこれはもともと大学のパーティとかで流して学生たちを笑わせるために作られた内輪のMAD。劇場公開など当然前提としていなかったが、なんと例の早稲田だかの教授によるとお酒の会社が買い取って商業上映したらしい。50年代のB級映画はともかくミッ某キーマウスも出演しているのにそんな無謀なと思うがオリジナル版は7時間もあるのでディズニーの法務部もチェックすることができなかったのだろう。ちなみに今回国立映画アーカイブにて2024年2月3日に上映されたのは4時間半の短縮版でした。

内容について言えば、オムニバスというよりも今で言う(逆にもう言わないか?)MADであるし、そもそも学生向けのネタとして作られたものなので内容に脈絡や意味などナシ。とはいえ一応軸となる作品はいくつかあり、『妖怪巨大女』、TVドラマ版『ローンレンジャー』、『Speed Crazy』、『College Confidential』(※これはタイトルがわからなかったのでblueskyで識者の人に教えてもらった。ありがとうございます)、などが次々スイッチされてネタ的な見せ場だけ繋がれ、合間にテレビ番組やコマーシャルが挟まれる。これも例の早稲田だかの教授の受け売りだがこうした構成にはダンテのテレビ体験が反映されているのだとか。テレビを漫然と見てる時って飽きてくるとパタパタとチャンネル変えてなんか面白いのやってないかなって探す。そういう感覚で『ムービー・オージー』は映画とテレビ番組、コマーシャルを繋いでいて、映画のダレ場に入ると急にテレビのコメディ・ショーに切り替わったり、緊張感の高まるシーンでコマーシャルが入ってきたりして観ているこっちはずっこける、というわけです。

終盤に入ると上記の映画に加えて『世紀の怪物/タランチュラの襲撃』(※これもblueskyで識者の人に教えてもらいました。ありがとうございます!)、『世界終末の序曲』『戦慄!プルトニウム人間』『世紀の謎 空飛ぶ円盤地球を襲撃す』、1933年版『キングコング』、『The Giant Clow』などの今では特撮映画クラシックとして名高い作品群(あとマルクス兄弟の『我輩はカモである』)が強制合流、あれこれの映画と映画がごちゃごちゃ混ざって(オージー!)パニックに次ぐパニックそしてエンドマークに次ぐエンドマークでなにがなんだかわからんがものすごい高揚感と大団円感である。ダンテの映画的にはやはり『グレムリン2』のしっちゃかめっちゃかが思い起こされるところだが、ティム・バートンの『マーズ・アタック!』終盤の展開(および引用ネタのチョイス)とも似ている。バートンもどこかで『ムービー・オージー』を観ていたのだろうか。今度『妖怪巨大女』のリメイク版作るらしいし。

おおまかな内容はだいたいこんな感じなのだがこれはあくまでも学生向けのネタなので一本の作品として最初から最後までちゃんと観せようなんて気はサラサラない。とにかくその場その場で面白ければそれでヨシということでもとより一本筋の通ったものではないが途中からは脱線脱線また脱線、戦時国債コマーシャルを二度流した後に児童アニメ『マイティ・マウス』の「さぁもう一度!」という台詞を繋げて再び同じコマーシャルを流す、みたいな編集によるジョークも思いつきでポンポン放り込まれる。このへんはもうニコニコ動画のバカMADと同じである。

というわけだから4時間半もあるのに俺には珍しく睡眠時間が推定15分、基本的にずっと面白くてサイコーであった。つまんなくなってきたら寝たりコンビニで肉まん買ってきたりすればいいのでこれを映画とするならだがこんなに観客にやさしい映画もないだろう。面白いところしかないとはいえあえてハイライトを挙げれば半分はやさしさで出来ているでお馴染みのあのバファリンのコマーシャル、これが笑えるんだよなぁ。ドラマ仕立てになっていてなにか深刻なことが主人公の身に起こるんですけど、そこで「すぐセンシティブになってしまうあなたにはバファリンです」のナレーションが入って主人公がバファリン飲んで一件落着って唐突すぎるし何も解決してないだろ! これが時間を置いて何種類も挿入されるから油断してると「またバファリンか!」ということになる。爆笑。

それから『College Confidential』の一場面、門限を破り深夜3時に帰宅した娘を両親が問い詰めるくだりでの台詞の応酬がホントにバカバカしくて…なんか「今は3時だぞ! この不良娘が!」「まだ3時じゃないよ! 3時15分前じゃん!」「あなた!」「じゃあ3時15分前だとして、3時15分前に家に帰るなんて許せん!」「宿題をやってたの!」「どんな宿題だ! 科目は! 提出期限は!」「あなた!」「3時まで勉強してたらいけないわけ!?」「やっぱり3時じゃないか!」…みたいな感じのやりとりが激しく迫真のトーンで繰り広げられる、これはあくまでも大真面目なシーンなんですけど、こんなの笑っちゃうよね。

グルーチョ・マルクスの『新婚さんいらっしゃい』みたいなテレビ・ショー、「ユダヤーキリスト教徒友愛セット」なるブラックすぎるコント、人形の動きが死にすぎていて大いに笑える子供たちと聖歌を合唱しようのコーナー等々もまた忘れがたい。まぁ無許諾パッチワークだし素材がそもそも面白いというのもあって、『ムービー・オージー』、いやはやたのしいたのしい時間の過ごせる、そしてこんなにもいろいろなオモシロが越境的に一堂に介している光景に今となっては感動すらさせられる、そうだねぇこれは、『ニュー・シネマ・パラダイス』の最後に流れる映画のカットフィルムのパッチワーク、あれそのものじゃないですかねぇ。

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